顎が出る「しゃくれ」は治療できる?美しいEラインになるには。
監修:歯科医師 高島光洋
しゃくれは下顎が上顎より前に出ている状態をいいます。受け口、下顎前突、反対咬合とも呼ばれます。
しゃくれは、噛み合せや発音に悪影響を与えたり、歯の寿命を短くする原因にもなります。このコラムでは、しゃくれを改善する方法についてお伝えします。
1.「しゃくれ」の分類は2つ
・①骨格に原因があるタイプ(下顎前突症)
・②歯並びに原因があるタイプ(反対咬合)
2.しゃくれの治療法はタイミングで変わる?
・乳歯のみの歯並びならマウスピース矯正
・永久歯が生え始めたら上顎拡大装置
・永久歯が全て生えたらワイヤー矯正
・成長期が完了したら外科手術も可能
3.”美しい横顔”にはEラインが重要!
・インビザラインでも美しいEラインを獲得できます!
・口周りの癖が直るとしゃくれを改善できることもある
4.インビザラインは子供のしゃくれにも適用できます!
・子供の矯正治療のタイミングとは?
5.矯正治療のタイミングを決める上で大切なこと
「しゃくれ」の分類は2つ
「しゃくれ」は、下顎前突症や反対咬合(受け口)とも呼ばれます。下顎前突症と反対咬合は同じ意味で使われることがありますが、厳密に言うと少し異なります。
下顎前突症は下顎の骨自体が上顎より前に出ている状態で、反対咬合は顎骨ではなく歯の生え方により噛み合せが逆になっている状態(下前歯が上前歯に被さっている)をいいます。
しゃくれはこの2つに分類され、骨格に原因があるタイプ(下顎前突症)と歯並びに原因があるタイプ(反対咬合)に分けられます。
①骨格に原因があるタイプ(下顎前突症)
正常な状態では上顎の方が大きくて下顎の方が小さくなります。しかし、上顎より下顎が大きく発達するとしゃくれ(下顎前突・受け口)になります。
この要因には遺伝的要素が深く関わっており、矯正治療のみでは治すことが難しく、顎骨に対する外科治療(手術)も必要になります。
※遺伝的要因については、受け口自体が遺伝するのではありません。歯や顎の大きさ、骨格が遺伝することにより結果的に受け口になる確率が高まります。
②歯並びに原因があるタイプ(反対咬合)
骨格はほとんど問題なく、歯の生える向きが原因でしゃくれを引き起こしている場合もあります。
正常な噛み合せだと、上の前歯は下の前歯に数ミリ被さっています。しかし、歯の生える向きにより逆に下の前歯が上の前歯に被さる状態で生えれば、しゃくれの状態になります。この反対咬合の場合は、舌の動きや口周りの癖(指しゃぶり、口呼吸など)などが原因になる可能性が高いです。
このタイプの方は歯の傾きを改善すれば、しゃくれを改善することができるため、矯正治療のみで治せる場合もあります。(口周りの癖が強い場合は、矯正治療と並行して改善するためのトレ-ニングを行うこともあります)
しゃくれの治療法はタイミングで変わる?
しゃくれの治療方法は、その原因や治療を行うタイミングで異なります。矯正治療のみで改善できる症例もあれば、顎骨に対して外科手術を行う症例など、患者さんのお口の状態を診断してから適した治療方法を提案します。
乳歯のみの歯並びならマウスピース矯正
乳歯の時期は、舌の動きや位置が大きな要因となって反対咬合を引き起こす場合が多いです。そのため、ムーシールドと呼ばれるマウスピース型の矯正装置を使用し、舌の動きや位置を正常な状態に戻す治療をおこないます。
ムーシールドは就寝時に使用します。治療期間は約6ヶ月~2年、費用は約10~35万円が目安となります。
矯正治療と一緒に舌の動きや、口周りの癖を改善するトレーニングを行うと後戻りもしにくくなります。
永久歯が生え始めたら上顎拡大装置
この時期の反対咬合の原因は、上顎の成長が不十分であるケースが多いです。
そのため永久歯の前歯が生え始めても反対咬合が改善しない場合は、上顎拡大装置を使用して上顎を広げる処置を行います。上顎の内側に固定式の装置を装着し、装置についているネジを決まった回転数回すことで、1日0.2mmずつ顎が広がる仕組みです。治療期間は約2年、費用は約15~40万円が目安となります。
上顎の骨の正中にある小さな隙間(正中口蓋縫合)が完全に閉じてない時期である10代前半くらいまで適用できます。
永久歯が全て生えたらワイヤー矯正
永久歯が完全に生え揃ったらワイヤー矯正で治療を行うのが効果的です。
前歯のみの治療で良いなど軽度の反対咬合であれば、マウスピース矯正も可能な場合もあります。ワイヤー矯正は、歯の表面にブラケットと呼ばれる装置を接着しワイヤーを通して歯を3次元的に動かします。
ワイヤー矯正を行う場合は成長がある程度落ち着いたのを確認してから開始します。治療期間は約2~3年、費用は約80~100万が目安となります。
この時期の治療からは、歯並びの状況次第では抜歯になる可能性も出てきます。
成長期が完了したら外科手術も可能
顎の成長が終了すれば(背の高さが変化しなくなる頃)、外科手術を行うことも可能です。
下顎の骨自体が上顎より前に出ている下顎前突症の場合は、矯正治療を行う前に下顎の骨に対して外科手術を行う必要があります。
外科手術では、下顎の骨を後ろに移動させるセットバック手術、上顎の骨を前に移動させる顎骨体移動術を行います。その後、矯正治療を行います。
治療期間は約3〜4年で、費用は保険適用の場合は約60〜80万円が目安となります(保険が適用される場合は指定の医療機関での治療となります)。
下顎前突症により生じた顔の歪みなども改善されやすいです。
”美しい横顔”にはEラインが重要!
矯正治療を行う上で、歯科医師が目指すゴールは歯並びを整えるだけではありません。「顔貌ラインの美しさ」・「安定した歯列のアーチ」・「歯周組織が健康であること」・「正常な咀嚼機能の獲得」も大切にしています。
中でも横顔の美しさは、歯並びと顔貌ラインのバランスに深く関わっています。その基準となるのがE-line(イーライン:エステティックライン)です。
E-lineは鼻先と顎先を繋いだ線の内側に上唇と下唇が位置する状態を指します。E-lineは欧米人が元となっていますが、日本人の鼻は欧米人より平均的に低いため、日本人のE-lineの基準は鼻先と顎先を繋いだ線に唇が軽く接するくらいでも良いとされています。
下顎前突症や反対咬合等の、いわゆるしゃくれた状態の方はE-lineよりも下唇が外側に位置する状態になっています。
美しい横顔を手に入れるために、矯正治療でE-lineを獲得することも可能です。抜歯を伴う症例が多いですが、非抜歯で行える症例もあります。
インビザラインでも美しいEラインを獲得できます!
矯正治療では、歯の並びを整えるために歯を動かすスペースが必要になります。そのスペースを確保するために抜歯を行うこともあります。
しかし、非抜歯でもスペースを確保できる方法があります。主な方法には「IPR」・「遠心移動」・「側方拡大」があります。
IPRとは
歯を移動するスペースを確保する、あるいは歯の大きさを調整し他の歯とのバランスをとるために行う方法です。
ワイヤー矯正でも行われてきた方法で、複数の歯の側面をそれぞれ0.2~0.5mmずつ削ることでスペースを確保できます。
健康な歯を削ることに抵抗を感じてしまうかもしれませんが、歯の寿命が短くなったり、虫歯になりやすくなることはないです。矯正治療を行っても健康な歯の状態を保てるため安心できる治療方法です。
遠心移動とは
歯を臼歯の方向に移動させる方法です。1番後ろの臼歯を後方に移動させて、次にその手前の臼歯を後方に移動させる方法を順に進めていきスペースを確保します。
歯列から出ている前歯などを正常な位置に戻すために行われ、しゃくれの症例でも適用されることが多いです。
インビザラインはマウスピース型の矯正装置で奥歯全体を覆っています。そのため、歯を移動させる力が均一にかかり、歯の根っこの部分までしっかり動かすことが可能です。遠心移動はワイヤー矯正よりインビザラインの方が優れています。
側方拡大とは
歯列を横に拡大する方法です。歯列の横幅を1mm拡大すると0.7mmのスペース確保が可能です。
ただ、拡大をしすぎると、歯が埋まっている骨(歯槽骨)から歯の根っこがはみ出てしまい、歯茎が下がったり歯の神経にダメージを与えてしまうリスクもあります。そのため、拡大可能な範囲を見極めて治療を行う必要があります。
インビザラインでは前もってシミュレーションを行えます。
インビザラインでは、コンピューターで治療計画を設計するため、治療後の歯並びの状態はもちろん、治療過程の状態(歯がどのように動くか)まで動画によりシミュレーションできます。そのため、患者さんに矯正治療の内容を具体的にイメージしてもらいやすく、歯科医師と治療計画を共有しながら治療を進めやすいのも特徴です。
また、このシミュレーションには歯の移動スペースを確保するための方法である抜歯はもちろん、IPR、遠心移動、側方拡大などの方法も組み込むことが可能なため、より具体的に患者さん1人1人に合ったシミュレーションが可能です。
ただ、患者さん毎に歯周囲の骨の量、歯茎の状態などが異なるため、100%シミュレーション通りに進むわけではありません。そのためにも、定期的に歯科医師が歯の動きや歯茎や骨の状態も確認し、必要に応じて微調整を行いながら治療を進めていきます。
口周りの癖が直るとしゃくれを改善できることもある
しゃくれは、骨格の遺伝が原因の場合もありますが、口周りの癖が原因となる場合もあります。
舌の癖
舌の癖は、しゃくれの大きな原因となります。
歯は、唇と舌の間に位置します。唇と舌が歯に加える力のバランスにより歯の位置が決まります。安静時、舌が上顎に接している状態が正常な舌の位置ですが、舌の位置が下顎に位置していると、舌の力が下の歯にかかり押し出す状態になるため、下の歯が前に出やすくなります。結果、しゃくれを引き起こします。
ずっと口が開いている方や、鼻づまりなどで口呼吸になっている方は、舌が下がる癖がつきやすいので注意が必要です。
まずは、ご自身の舌の位置を確かめてみましょう。もし、上顎に接していなければ、舌の癖を改善できるよう意識してみましょう。
口周りの癖
舌以外の口周りの癖も歯並びに影響することがあります。代表的なのは指しゃぶりや爪を噛む癖、下の顎を前に出す行為などです。
骨格などが発達段階にある幼少期にこのような癖があると、しゃくれだけではなく他の不正咬合の大きな要因にもなります。なるべく早めに改善できるようにお子さんを観察し、曲があるようであれば歯科医院に相談をしましょう。
※小児歯科学会では指しゃぶりに関しては3歳までは無理に止めさせなくても良いとしています。小さいお子さんなら、指を口に加えていたら、優しく口から出して手を握ってあげるだけでもいいので他に意識がいくように促す方法もあります。口周りの癖の改善はお子さんの成長に合わせて進めましょう。
インビザラインは子供のしゃくれにも適用できます!
インビザラインでもお子さんのしゃくれを改善することは可能です。
乳歯と永久歯が両方生えているお子さんであれば、「インビザラインファースト」が適用されます。従来の子供の矯正治療では、第一期治療で「顎のサイズを拡大する」、第2期治療で「歯を正常な位置に並べる」というように治療を分けて行う必要がありました。(顎の拡大により歯が綺麗に並ぶ場合は第一期治療のみで完了することもあります。)
しかし、インビザラインファーストは子供の矯正治療に特化した治療法で、「顎のサイズの拡大」と「歯を正常な位置に並べる」ことを同時進行で行えるため、比較的お子さんの負担が少ないことが特徴です。
基本的な適用年齢は6~10歳ですが、正確な基準は年齢ではなく「歯の年齢(歯牙年齢)」であるため、適用可能かどうかは歯科医師に判断してもらいましょう。
歯の生え換わりが完了し、全て永久歯が生えているお子さんの場合は、インビザラインファーストは適用できないので、大人と同じ矯正方法となります。
子供の時期のしゃくれは、そのままにしておくと進行していく可能性もあります。大人になり重度になれば、治療の際に抜歯や顎骨の手術が必要になることもあります。
しゃくれは、0歳からの予防策や、3歳~5歳の間に行える治療法もあるので、お子さんの歯並びで気になることがあれば、ぜひご相談ください。
子供の矯正治療のタイミングとは?
6〜10歳頃(第一期治療)
乳歯と永久歯の両方が生えている時期になります。
下顎の成長を抑える装置や上顎を拡大する装置を使用することが可能なため抜歯のリスクが少ない時期です。また、顎骨の成長を利用して矯正治療を行えるため、噛み合せも安定しやすく、後戻りのリスクも少なくなります。
歯並びの状態によっては、乳歯と永久歯が両方生えていても第1期治療が必要ないと判断されることもあり、その場合は2期治療の時期まで経過を見てから治療を始める事もあります。
※受け口の治療であれば3~5歳の間に行うのがおすすめです。この時期の矯正治療はマウスピース型の取り外しできる装置を使用し、原因となる舌や口呼吸の癖を改善して歯並びの改善も計ります。多少の違和感はありますが痛みを感じることはありません。早く始める分、治療期間は長くなりますが、歯並びだけでなく骨格自体も完璧に改善できる可能性が高まります。
11〜15歳頃(第二期治療)
11歳頃になると上顎の成長は緩やかになるので、主に下顎の成長を抑える装置を使用することもあります。
永久歯への生え換わりが完了するのは、おおよそ12歳以降になります。この時期になると、大人の矯正治療と同じ方法で治療を行います。
第一期治療を行っても歯並びが改善されない場合は、第2期治療で歯並びを整えることが可能です。歯のサイズが顎の大きさに対して大きい場合は、歯を動かすスペース確保のため抜歯が必要になることもあります。
矯正治療のタイミングを決める上で大切なこと
実際、矯正治療はどの年齢でも受けることができます。しかし、早めに計画しておくと選択肢も広がり、歯並びはもちろん骨格までも理想に近い形に治すことが可能になります。早くに矯正治療を行えば、虫歯や歯周病のリスクも減らすこともできます。
お子さんの歯並びに気になる部分があっても、自然に改善することもあれば、歯並びが良くても顎がズレていることで早めの治療が必要な場合もあります。
お子さんの矯正治療を考える場合、早いタイミングで親御さんが気付いてあげられることが非常に大切になります。ただ、治療が必要な歯並びなのかどうか判断しづらいこともあるので、お子さんの歯が生え始めた時点で定期的に歯科医院に通い、気になることがあれば相談できる環境を作っておくと安心です。
もちろん、歯がすでに生え揃っている場合でも遅くはありません。矯正治療が必要であってもその年齢やお口の状態に合った治療方法を提案できます。矯正治療の計画は早いに越したことはありませんが、遅すぎることもないのです。
年齢毎の矯正治療の効果の違いを知り、お子さんの成長に合った矯正治療のタイミングを歯の専門家と一緒に見つけることが重要です。
もしお子さんの歯並びで気になることがあればひだまり歯科医院にご相談ください。