噛み合わせって改善できる?効果的な治療方法をご紹介!
監修:歯科医師 高島光洋

食べ物がはさまりやすい、虫歯ができやすい、歯が欠けたことがある、歯が擦り減っている感じがする…
これらのお悩みは、もしかすると噛み合わせの悪さが原因かもしれません。
このコラムでは「正常な噛み合わせ」についても触れながら、「悪い噛み合わせの種類」や「噛み合わせが悪化する原因」、「悪い噛み合わせを改善する治療方法」などについてご説明します。
1.噛み合わせの悪い状態「不正咬合」について
2.歯の噛み合わせが悪くなる原因について
3.悪い噛み合わせをそのままにしておくリスクについて
4.噛み合わせを改善するための主な4つの治療方法
4-1マウスピース矯正
4-2ワイヤー矯正
4-3補綴治療
4-4外科的な治療法
5.自力で歯並びは治せるの?
6.インビザラインでも噛み合わせ治療が行えます!
噛み合わせの悪い状態「不正咬合」について
悪い噛み合わせについてご説明する前に、「正常な噛み合わせ」について知っていただこうと思います。
正常な噛み合わせとは、奥歯を咬んだときに上の前歯が下の前歯に被さった状態で、その重なりは2~3mmくらいです。左右対称に並んでいて、前後的な位置関係は、上の前歯から下の前歯までの距離が2~3mmくらいが正常です。
奥歯の噛みあわせについては、歯が噛み合う部分の山と谷の重なりを基準とします。(奥歯の噛み合わせについてはより詳細な専門知識が必要です)
上下の歯が正常に噛み合っていない場合を「不正咬合」と呼び、大きく6種類に分けられます。それぞれ項目に分けて解説します。
◆過蓋咬合(かがいこうごう)
奥歯を噛み合わせたときに、上の前歯が下の前歯に大きく重なっており、その重なりが2~3mm以上ある状態。過蓋咬合の症状が強いと、下の前歯が上の前歯の裏側の歯茎にあたったり、上の前歯が前方に突出する「出っ歯」の原因になったりすることがあります。
◆交叉咬合(こうさこうごう)
奥歯を噛み合わせたときに、部分的に噛み合わせが反対になっている状態を言います。具体的には、上の歯が下の歯より内側に生えている、あるいは内側に傾いていることで起こります。互い違いに噛んでいるように見えるため「交叉咬合」と言います。
◆叢生(そうせい)
歯が並んでいるアーチからずれて生えてしまい、デコボコした状態になった歯並びのことを言います。歯が生えるスペースが足りないために、歯がうまく並ばないことで起こります。歯磨きがしづらく、汚れも残りやすいため、虫歯や歯肉炎になりやすいです。
◆開咬(かいこう)
奥歯を噛み合わせた時に、前歯が噛み合わず、正面から見ると上と下の前歯の間に隙間がある状態を言います。食べ物を前歯で噛み切れなかったり、発音が不明瞭になったりすることがあります。奥歯に大きな負担がかかる噛み合わせのため、将来的に欠けたりヒビが入ったりするリスクが高いです。
◆上顎前突(じょうがくぜんとつ)
前歯が前方向に突出している歯並びで、「出っ歯」とも呼ばれます。前歯が前方向に出ていることで唇が歯に引っかかって閉じにくく、前歯が乾燥しやすいです。口の中の乾燥は虫歯のリスクに繋がります。
◆下顎前突(かがくぜんとつ)
奥歯を噛み合わせた時に、下の前歯が上の前歯より前方に出ている状態を言い、「受け口」とも呼ばれます。特にサ行がうまく発音できないことが多いです。奥歯に大きな負担がかかりやすく、将来的に欠けたりヒビが入ったりすることがあります。
歯の噛み合わせが悪くなる原因について
噛み合わせの悪化は、「親からの遺伝」、「日常的な癖」、「治療すべき歯の放置」、「間違った呼吸法」などにより引き起こされます。
○親からの遺伝
正常な顎の大きさは、下の顎骨より上の顎骨の方が大きいです。しかし、下の顎骨の方が大きかったり、上の顎骨の方が小さかったりすると歯並びや噛み合わせが悪くなり、不正咬合を引き起こす原因になります。
また、歯と顎骨の大きさのバランスも関係しています。歯の大きさが顎骨と比べて大きいと、叢生になりやすいです。
このように、両親あるいは片方の親が歯並びが悪い場合には、顎や歯の大きさが遺伝することで、その子供も歯並びが悪くなることがあります。
○日常的な癖
頬杖をつくと、下顎に頭の重みが加わり、下顎がゆがむ原因となります。横向き寝やうつぶせ寝の状態も顎骨に頭の重みが加わるため、横に顎骨がずれて左右の歯並びのバランスが悪くなったり、鼻で呼吸しにくく口呼吸になったりすることもあります。
このように、日常的な癖によって長期的に継続して顎や歯に力がかかり、歯並びが悪化することがあります。小さなお子さんによく見られる指しゃぶりも出っ歯や開咬の原因になることがあるので、早めに改善できるようにすることが大切です。
○治療すべき歯の放置
虫歯を放置すると、徐々に進行して歯がもろくなります。それによって歯が欠けたり割れたりすることがあり、噛み合わせの状態が変化します。長期間続いてしまうと、噛み合わせの悪化に繋がります。
また、歯が欠損している部分を放置していると、その部分に隣の歯が傾くこともあります。この状況も、噛み合わせを悪化させる原因の一つです。
○間違った呼吸法
正しい呼吸方法は鼻呼吸です。鼻呼吸では、舌が正しい位置におさまりやすいです。
舌の正しい位置とは、舌の先端が上の前歯の裏側付近の歯茎に接触しており、舌全体が上顎に吸着している状態を指します。口呼吸になっていると、その舌の位置が下がる傾向があります。
歯並びは舌や唇の力の影響を受けることがあり、上の前歯の裏側に舌が接触していると「上顎前突」、上下の前歯の間に舌が位置していると「開咬」、下の前歯の裏側に接触している状態だと「下顎前突」になりやすいです。
悪い噛み合わせをそのままにしておくリスクについて
噛み合わせの悪い状態が長期的に続くと、お口のトラブルだけでなく、体の痛みや歪み、消化器官へ影響が及ぶことがあります。悪い噛み合わせを放置することは、全身の健康を妨げることにも繋がるのです。以下に、悪い噛み合わせが影響する主なリスク6項目についてご説明します。
①頭痛や肩こりの原因になる
噛み合わせが悪化すると、頭痛や肩こりを引き起こすことがあります。
下顎の筋肉は、頭の側面の筋肉や、首や肩の筋肉と繋がっています。また、物を噛む力は、食べ物の硬さや大きさに合わせて筋肉により調整されます。しかし、噛み合せのバランスが崩れると、筋肉に余計な負荷がかかって緊張状態になります。食べ物を咀嚼する際にかかる力は、通常時でご自身の体重と同じくらいの強さだと言われており、噛み合せが悪化すると、それ以上の力がかかる可能性があるのです。
その結果、筋肉が疲労して、頭痛や肩こり、首の痛みなどへと繋がるのです。
②虫歯や歯周病リスクを高める
噛み合せが悪いということは、歯並びにも問題があります。歯と歯が重なっていたり、歯が傾いたり捻れている場合は、歯を磨きにくいためラーク(歯垢)が残りやすいです。
プラークは「細菌の塊」と呼ばれるほど、細菌が多く存在します。そのため、歯並びの悪さや噛み合せの悪さは、虫歯や歯周病のリスクを高めてしまいます。
また、噛み合わせの悪さにより部分的に大きな力が集中してしまうと、その歯の周囲にある歯周組織が炎症を起こしやすくなり、歯周病の進行が早まることもあります。
③顎関節症を発症しやすい
長期間、噛み合わせが悪い状態だと、顎関節にも負担がかかり、コッキン、カックンなどの関節音が鳴ることがあります。これを顎関節症と呼び、痛みを伴ったり、大きく口を開けられなくなったりするなどの症状もみられます。
何もしていない時、上下の歯は2〜3mmの隙間が空いており、噛み合っていません。しかし、日常的に歯を食いしばっていて上下の歯がずっと噛み合ったままだと、顎関節症になりやすいです。食いしばりに気づいた時には、上下の歯を離すようにしましょう。
④顔にゆがみが生じる
噛み合せが悪いと、左右で咬む力に違いが生じ、筋肉の発達にも左右差が生じます。お顔のシワや目の大きさ、口角の上がり具合も左右で異なるため、顔が歪んで見えることもあります。
また、頬杖をつく癖や横向き寝、うつ伏せ寝などの癖も顔のゆがみに繋がるので、そのような癖がある方は気づいたらやめるようにしましょう。
⑤咀嚼がうまくできない
歯と歯がうまく噛み合っていないと、食べ物の咀嚼効率が悪いです。正常な噛み合せで全ての歯がうまく噛み合っている状態と、噛み合せが悪く部分的に上下の歯が噛み合っていない状態とを比べると、同じ咀嚼回数でも前者の方が食べ物を細かく噛み砕くことができます。食べ物は細かく噛み砕かれていた方が消化しやすいため、胃や腸などの消化器官に負担をかけにくいです。食べ物の噛み砕かれ方が不十分な状態で消化器官に送られると、胃や腸に負担がかかりやすくなります。栄養が吸収されにくいというデメリットもあります。
⑥発音がうまくできない
噛み合わせの悪さは、発音や滑舌にも影響します。「下顎前突」や「開咬」、「上顎前突」などは上下の歯の間に隙間ができやすく、その隙間から息が漏れることで発音が不明瞭になりやすいです。特に、舌を上顎に当てて発音する「サ行」、「タ行」、「ラ行」が発音しづらいことがあります。また、「叢生」においても、下の歯が内側に位置していたり傾いていると、その歯に舌が当たり動かしにくくなることで、滑舌が悪くなることもあります。発音や滑舌が悪いと、会話することや人前で話すことへ抵抗感を抱いてしまうことがあります。
噛み合わせを改善するための主な4つの治療方法
マウスピース矯正
[治療方法]
透明な樹脂素材でできているマウスピース型矯正装置を使用して、少しずつ歯を動かしながら歯並びや噛み合わせを整えていく方法です。
装置の交換は約2週間毎に自宅で行なうため、通院回数は2~3ヶ月に1回と比較的少ないです。ただし、装置装着時間が1日20~22時間と決められており、自己管理が必要になります。
(歯並びの状態によって、マウスピースの交換頻度や通院回数が変わることがあります)
[特徴]
・矯正していても目立ちにくいです。
・装置が脱着可能なため、飲食や歯磨き時に外すことができます。
・1つのマウスピースにおける歯の移動距離が少ないため、比較的痛みを感じにくいです。
[費用の目安]
・約80~100万円
[治療期間]
・約2~3年
マウスピース矯正には部分矯正という方法もありますが、部分矯正では部分的な歯並びしか治すことができません。全体的な咬み合わせを治すためには全体矯正が必要です。
ワイヤー矯正
[治療方法]
それぞれの歯面にブラケット装置を接着して、そこにワイヤーを通して歯を動かします。表側に装置をつける方法を「表側矯正」、裏側に装置をつける方法を「裏側矯正」と言います。歯を大きく移動させることができるため、難易度の高い症例でも適用しやすいです。
[特徴]
・「表側矯正」は金属製の装置が目立ちやすいですが、オプションで装置を白色や透明の素材にすることも可能です。
・「裏側矯正」は装置が目立ちにくいですが、高い技術が求められるため費用が高額になりやすいです。
・装置をつけっぱなしにできる反面、歯磨きのしにくさや、装置のでっぱりによって粘膜が傷つきやすいという問題があります。
[費用の目安]
・「表側矯正」による全体矯正の費用目安 90~110万円くらい
・「裏側矯正」による全体矯正の費用目安 100~150万円くらい
[治療期間]
・約2〜3年
ワイヤー矯正には部分矯正という方法もありますが、部分矯正では部分的な歯並びしか治すことができません。全体的な咬み合わせを治すためには全体矯正が必要です。
補綴治療
[治療方法]
歯の擦り減りや欠けがみられ、噛み合わせへの影響が考えられる場合に行なわれる治療です。噛み合わせは、僅かなズレでも違和感があるほど敏感です。そのため、歯の被せ物(クラウン)や歯科用インプラント等の補綴物を、患者さんの噛み合わせに適合するように加工しながら作製します。噛み合わせのズレを記録する装置を使用する場合もあります。
[特徴]
・奥歯だけ治療される方や、全部の歯を被せ物やインプラントに変えて治療される方がいらっしゃいます。
・噛み合わせの状態はもちろん、お口の状態や欠損している歯の本数によって、治療する歯の本数が異なります。
・最初の段階では、精密に作製された仮歯で噛み合わせの変化をみていき、噛み合わせに問題がなくなったタイミングで、セラミックや金属製の最終的な被せ物を装着することもあります。
[費用目安]
・インプラント1本につき30~50万円くらい
・セラミッククラウン1本につき8~18万円くらい
治療する歯の本数や医院によって費用が異なります。説明を聞く際は、総額の費用目安を確認しておきましょう。
[治療期間]
・数ヶ月~1年くらい
被せ物を使用する治療で症状が軽度の場合は、1ヶ月くらいで治療が終わる方もいらっしゃいます。インプラントは外科的な治療を伴うため、6ヶ月~1年くらいの期間が必要になることもあります。
外科的な治療法
[治療方法]
骨格が原因で不正咬合を引き起こしている場合に適用されることが多いです。顎骨を削り大きさを調整して、上下顎の噛み合わせのバランスを整えます。歯列矯正が併用されることがほとんどです。
[特徴]
・「顎変形症」と診断され条件を満たしていれば、外科手術と矯正治療ともに保険適用になることがあります。
・お口の内側を切開するので、傷口が目立つことはありません。
[費用目安]
・下顎の手術であれば30〜35万円くらい。
・下顎と上顎両方の手術であれば40〜50万円くらい。
これは自費の場合の費用目安です。「顎変形症」と診断された場合は、保険適用となります。
[治療期間]
3年くらい
<基本的な治療の流れ<>
外科治療前の矯正治療(6ヶ月~2年くらい)
↓
外科治療(手術前日〜術後10日くらいの入院)
↓
外科治療後の矯正治療(1年くらい)
↓
保定期間
自力で歯並びは治せるの?
小さな力でも継続してかければ、歯は動きます。そのため、歯と歯の間の小さな隙間などがあれば、治ることもあるかもしれません。ただし、その隙間が治ったとしても、他の部分に隙間ができてしまう可能性もあります。
よくネットなどで自分で治す方法が紹介されていることがありますが、大きなリスクがあることを知っておきましょう。
そのリスクには、以下のことが挙げられます。
・さらに歯並びが悪化することがある
・歯を動かすことで、歯の周りの組織にダメージを与えることがある
・歯を動かすことで歯内部の神経がダメージを受け、痛みを生じることがある
一度、歯並びが変わってしまうと、治すのに数年かかることがあります。歯並びや噛み合わせに悩まれている方は、まず歯科医院で相談することが大切です。
インビザラインでも噛み合わせ治療が行えます!
歯列矯正を行うと、歯並びが改善されるとともに、噛み合わせも改善できます。歯列矯正は大きくわけて、ワイヤー矯正とマウスピース矯正2種類の方法があります。
特に、マウスピース矯正はマウスピース型の透明な矯正装置を使用するため、歯列矯正を行っていても、人に気づかれにくいです。取り外しも可能なため、お食事や歯磨きの際に煩わしさを感じにくい点もメリットと言えます。
マウスピース矯正にはいくつか種類があり、その1つに「インビザライン」があります。インビザラインは世界でのシェア数がトップで、多くの実績があります。治療のシミュレーションでは、患者さんのお口の変化を治療経過から完了まで動画で事前に確認することができます。
インビザラインは軽度の矯正治療に適用されているように思われがちですが、意外と適用範囲は広いです。ただし、実際に患者さんのお口の状態をみてからの診断になりますので、歯並びや咬み合わせが気になる方は、歯科医院に相談してみましょう。