ディスキング(IPR)が本当に必要かどうかの判断基準とは
監修:歯科医師 高島光洋
歯科矯正治療では、歯を並べるためにスペースが必要です。そのスペースを作る際に選択肢の1つとして「ディスキング」といわれる方法があります。
ディスキングとは?効果は?など、様々な疑問について詳しくお話していきます。
1.ディスキングとは
2.ディスキングが必要なケースとは
2-1「削り過ぎ」が起こりやすい部分矯正
2-2ディスキングの必要性と効果
2-3ディスキングに不向きなケース
3.ディスキングの手順
4.ディスキングのよくある質問
4-1①歯の強度が弱くなる?
4-2②歯周病、虫歯のリスクが上がるのでは?
4-3③痛むことがあるのでは?
5.ディスキング以外の方法
5-1当院が考えるディスキングについて
ディスキングとは
ディスキングとは、歯と歯の間を少し削ってスペースを作る方法です。歯の横面のエナメル質を0.5mm以内の範囲で薄く削ります。「IPR」や「ストリッピング」と呼ばれることもあります。0.5mm以内という僅かな量ですが、全部の歯に行った場合、最大で6.5mmも隙間ができる計算になります。
健康な歯を削るというとしみたりするのではないかと不安になるかもしれません。しかし、歯の最表層のエナメル質は歯の中でも一番硬い組織で2~3mmの厚みがあるので、0.5mm削ってもしみたり痛んだりすることはほとんどなく、歯にダメージを与えることはありません。歯を動かすためのスペースが必要な場合や、歯の大きさを整えたい場合に有効な方法です。
ディスキングが必要なケースとは
ディスキングが必要な理由は主に2つあります。
〇歯のスペースの確保が必要な場合
ガタガタしている前歯やねじれている歯がある場合、これらが起こる原因の多くは歯が綺麗に並ぶスペースがないことです。歯が綺麗に並ぶスペースを確保する手段として歯列の幅を拡大させたり抜歯をするという選択もありますが、少量のスペースで十分な場合はディスキングで解決できます。
〇歯の幅を調整する
歯の大きさのバランスを整える目的もあります。歯の横幅が大きいために前歯が強調されると出っ歯のように見え、口元の印象が悪くなることがあります。歯の横幅が大きくなるのは上の前歯に多く見られ、その場合もディスキングをすることで歯の幅を調整することができます。
「削り過ぎ」が起こりやすい部分矯正
近年、前歯だけ歯並びを整える「インビザラインGO」という部分矯正をされる方が多くなってきています。
この矯正方法は奥の歯(臼歯部)を動かさず抜歯をしない矯正方法なので、歯が並ぶスペースを確保するには歯列拡大とディスキングを行います。
しかし、歯を削る量が計画したものより多いと、すきっ歯になったり歯の移動に時間がかかったり、のちに知覚過敏になった、などの問題もあるようです。
ディスキングが必要な症例とディスキングが向かない症例を次にご紹介します。
ディスキングの必要性と効果
〇歯が並ぶスペースを確保する
歯がねじれて生えている場合や出っ歯など歯の向きや出っ歯を内側方向に変えたいときに、スペースを作ることでこれらを改善することができます。
〇歯の大きさ(横幅)を調整する
歯の大きさが上下で大きく差があったり、左右でも違う場合があります。このようなアンバランスの口元の改善もディスキングによって歯の大きさを調整します。
〇ブラックトライアングルを改善する
ブラックトライアングルとは、隣合う歯と歯肉の境目にできる三角形の空洞のことです。歯の側面の豊隆部をディスキングによって削ることでブラックトライアングルを改善することができます。
〇矯正後の後戻りを防ぐ
歯並びと整えた後に歯が動くことを「後戻り」といいます。ディスキングを行った歯の側面は隣同士の歯と接触する面積が多くなります。歯の接触面が大きいと互いに支え合い安定します。よって後戻りがしにくくなります。
ディスキングに不向きなケース
〇歯のスペースを大きく確保しなければならない場合
歯並びを改善するために必要なスペースの量は、矯正の計画段階で分かります。そのスペースがディスキングで得られる量では足りないと判断された場合は、抜歯や歯列拡大、歯の遠心移動など他の方法でスペースを確保します。
〇ブラックトライアングル解消が目的な場合
ブラックトライアングルになる原因には加齢に伴う歯肉の退縮や歯周病が挙げられます。歯周病のままディスキングを行っても、歯周病が進行するとブラックトライアングルも進行します。よって、先に歯周病の治療を行って、歯肉と歯を支えている骨の状態が落ち着いた段階で、ディスキングによってブラックトライアングルを解消できる場合に行います。
ディスキングの手順
ディスキングは次の方法で行います。
1、ディスキング前に隙間の測定
隙間を測る専用の器具を使用して現在の隙間の量を確認します。同じ口の中でも歯と歯の間によって隙間は違うので正確に測定していきます。
2、歯肉の保護をする
歯を削る際に、歯肉などの柔らかい組織を傷付けないように保護します。
3、歯を削る
歯と歯の間を削るヤスリや円盤切削器具(ディスク)、切削バーを使用して削ります。これらの器具を機械に装着して削る方法と、手動で削る方法があります。
ディスキングは原則左右同じ量を削ります。
4、削った表面を研磨する
削った後は歯の表面はザラザラしているので、そのままだと汚れや着色が付きやすくなります。削った面は研磨をして表面を滑沢にします。
ディスキングのよくある質問
これまで、ディスキングはエナメル質を薄く削るだけなのでしみたり痛みはないとお話してきましたが、それでもご不安な気持ちの方もいらっしゃるでしょう。
ディスキングについてよくあるご質問の中から以下の3つについてご説明します。
①歯の強度が弱くなる?
ディスキングで歯を削る量は最小限であり、前述の通り最大でも0.5mmです。この量は歯がしみたり痛みが出たりすることはありません。歯の強度が悪くなるほど削ることはないので歯の寿命を短くすることもありません。適切な検査を行い、歯を移動させる、歯の傾きを変える、回転させるためのスペースがどれだけ必要でどれだけの量の歯を削ったらいいかを計画して精密に削ります。よって、歯が割れたり折れたりといった心配はありません。
②歯周病、虫歯のリスクが上がるのでは?
歯の表面を削るというと虫歯になりやすいのではないか?とお考えもあるでしょう。確かに一時的に歯の隙間が開くことで食べ物が詰まりやすくなることはあるので適切な歯磨きは必要ですが、歯を削ったからといって虫歯や歯周病になるということはありません。むしろ歯の表面を削ることで再石灰化が促され、虫歯になりにくくなるというデータもあります。また、歯がきれいに並んだあとは歯磨きがしやすくなるので虫歯や歯周病のリスクが低くなるといった報告もあります。
③痛むことがあるのでは?
歯を削る際の振動は多少ありますが、痛みを感じる象牙質までは削らず歯の一番硬い部分のエナメル質を薄く削るだけなのでしみたり痛むことはありません。万が一痛みがある場合でも痛みを緩和する薬剤を塗布します。
また、歯肉を傷付けないように保護をして削るので歯肉の痛みもありません。しかし歯肉に炎症がある状態だと歯と歯の間の歯肉(歯間乳頭)に触れた際に痛みや出血が見られる場合はあります。
ディスキング以外の方法
それでも歯を削ることに抵抗がある方には他の方法もご紹介します。
〇歯列拡大
歯が並ぶアーチを歯列弓といい、これを外側に広げる方法を「側方拡大」といいます。拡大装置といわれる器具で広げるのですが、顎の骨自体を広げるのではなく、歯の生える向きを外側に向かせてスペースを作る方法です。
〇抜歯
歯を1~2本抜いてスペースを作る方法です。歯の移動距離や本数などを考えると、前から4番目と5番目の歯(小臼歯)が対象になるケースが多いです。それ以外の歯が虫歯で大きく歯がなくなっていたり、歯周病が酷くグラグラしているはがあるなど、長く残すことが難しい歯が選択されることもあります。
〇臼歯の後方移動
奥歯の奥に広いスペースがある人は矯正装置を使って歯を後ろ側に移動させる「後方移動」を行い、前歯部の歯が綺麗に並ぶためのスペースを確保していきます。この後方移動の際に親知らずが生えていると先に親知らずの抜歯を行います。
当院が考えるディスキングについて
当院でディスキングを行う際には次のことをお約束します。
〇十分な説明
ディスキングが必要な時はその理由と効果をお話した上で考えられるリスクもしっかりとお伝えしてご提案します。
〇他の方法の提示も可能
どうしてもディスキングに抵抗がある場合、他の治療計画を立てることもできます。
〇年齢、状態に応じた治療計画を立案
過去にディスキングが必要といわれた方でも、年齢が上がると歯と歯に隙間ができやすくなります。その場合は治療計画を見直し不要と判断することもあります。
〇無料カウンセリングを行っています
ディスキングへの抵抗感や疑問などをお持ちの方は当院の無料カウンセリングでお話をお聞かせください。お一人お一人に合った治療方法をご提案いたします。お気軽にお問合せ下さい。